【追憶】中編



「ねぇ、何処へ行くの?」

木々がみっしりと生い茂る密林を歩いて行く前嶋に少女は訊ねた。

あの後、前嶋達は必要最低限の仕度を整えて彼女の家を後にしていた。

前嶋の予想では自分だけ逃げても彼女が奴等に抹消される可能性がある。

そう読んだ前嶋は少女を連れて奴等から逃げるように密林を歩いていた。

「何処にも行かない…ただ…奴等にあの場所を知られた以上、
あんたをあそこに住ませ続ける理由にはいかない…

  俺が責任を取って誰にもバレない所を探してやる。」

「ねぇ…あんたってのやめてよ、そういう堅苦しいのは…
私はエリィって言うの…君の名前は?」

「・・・・・・・」

「ねぇ、黙ってないで教えてよ。」

「……前嶋 亮…」

前嶋がそう答えるとエリィは『変った名前だね』と笑った。

それからしばらく歩き夕方になると小さな村らしき集落を見つけた。

ほぼ1日中、歩いた為か彼女にも顔からも疲労の様子が窺えた。

少し程度の休憩だと思えばいい……。

そう思った前嶋は村へと立ち寄って一泊していく事にした。

・・・・・・

「フフ、外泊って楽しいね♪」

村の近くにあった廃虚の家の部屋でエリィは楽しそうに笑みを浮かべ、
前嶋に話掛けるが………

「…あぁ…」

本人の方は相変わらず無愛想で愛用銃を手入れしながら簡潔に答える。

するとエリィは前嶋の顔を覗き込むと、
『ねぇ、女の子と外泊した事ないんでしょ?』と前嶋に訊ねた。

しかし、前嶋は『そんな事はない』と再度簡潔に答え顔を逸らした。

そんな前嶋の反応を予想していたかのようにエリィは
『ウソって顔に書いてあるよ』と逸らした顔を追かけるように
覗き込み言うと微笑んだ。

すると前嶋は図星かのように一瞬、照れると『むぅ』と唸り、再度、顔を逸らした。

それを見たエリィは『クスッ』と笑みを浮かべ『…かわいい』と呟いた。

それが聞こえたのか、前嶋は少し顔を赤くして愛用銃を不意に落とした。

「……俺には関係ないな…そんな事……」

前嶋はそう言うと落とした銃を慌てて拾い上げた。


………2週間後。


前嶋達はここまで移動しながらだが、無事に野外生活を送って来ていた。

生活に必要最低限の物資は村で入手。

前嶋はエリィの事も考え、移動は多少の休憩を含め朝方から夕方。

深夜は前嶋が一晩中、周囲を厳重に警戒。

前嶋本人の睡眠時間は休憩中のわずかな間に仮眠を済ませている。

何より前嶋はこんな生活を十数年間続けている為、一切の支障はない。

だが、彼女の方は支障が幾つかあった。

定期的には足を休ませているが長距離を歩いた事のない彼女の足は
日が経過していくにつれ、疲労も増し、血豆なども目立ってくる。

その為、前嶋は時々、恥ずかしながらも彼女を背負ったりしている。

そのせいだろうか?彼・彼女が徐々に親密になりつつあった。

「…ねぇ、リョウ…仮眠だけで大丈夫なの?」

エリィは前嶋の側を歩きながら不意に訊ねた。

「…あぁ、大丈夫だ。…こう言う生活には慣れている。」

と言い前嶋は彼女のペースに合わせながら隣を歩く。

それを聞いたエリィは『リョウって優しいよね』と言い微笑んだ。

「…そんな事はない…」

前嶋はそう言うと近くにある木に腰を降ろし、仮眠をはじめた。

そう、いつもの休憩の合図でもである。

エリィもそれにつられて前嶋の隣に腰を降ろし疲れた脚を休ませる。

休憩をはじめてからしばらくするとエリィの片側の肩に
突然、重くなる感触がした。

エリィは重くなった方の肩を見ると前嶋の頭が乗っかっていたのだった。

どうやら完全に熟睡してしまったらしい。

「…やっぱりね、仮眠だけじゃね…」

エリィはそう呟くと前嶋の頭を自分の膝へと移し、
前嶋に膝枕をしてあげたのだった。

それを知らずに静かな寝息をたてながら熟睡する前嶋。

「…クスッ、やっぱりかわいい…」

エリィがそう呟くと前嶋の眉毛が一瞬、『ぴくっ』と反応した。

そして、次の瞬間。

前嶋は敵襲かと思い込み、銃を片手に飛び起きた。

『!!』

しかし、飛び起きた前嶋と前嶋の寝顔を覗き込んでいたエリィ。

この両者の唇が完全に触れたのだ。

周囲から見た場合、この状況は○○≠ニ解釈するしか無いに等しい。

2人は時間が止まったかのように固まっていた。

そして、しばらくすると前嶋は顔を真っ赤にして気絶した…

いや、石または岩になったかのように硬直した状態で倒れた。

また、エリィも前嶋が倒れると自分の唇を手で触れた。

その後、彼女は感激しているのかは不明だがガッツポーズらしき仕草をして見せた。





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