追憶編 第1章 −出会い− 】

 

夜の闇が支配する暗黒の世界・・・・・

炎に燃やされ瓦礫と灰だけに化したひとつの村・・・・・

それはそこには村さえも無かったように見える。

そこに散らばっている屍の山・・・

首が無い者、血肉だけになって身元さえも判らない者、

どれが村の住人でどれが兵士の見分けさえもつかない。

そこに生きていた者全てが死んでいる。

大地を染め上げ、辺りに飛び散った人肉と血の跡・・・

それはまるで惨劇を語るかのように生々しい・・・

その村の中心でただ1人でひっそりと佇む少年。

返り血を浴び、凶器を持ったまま1人で呟く・・・

 

『何故、俺だけが生き残る・・・・・』

 

その少年の脳裏には生々しい惨劇が刻まれていた。

爆発と銃撃の音に混じり逃げ惑う人々の悲鳴、そして苦痛に悶える声。

さらに、その少年の足元に転がってきたひとつの人の頭。

それは首を無理矢理、引き千切られた少女の頭だった。

その少女の目線は何かを訴えるかのように少年へと向けられていた。

その少女の顔は少年には覚えがあった、少年はしゃがみこんで

少女の首を抱えると怒りと悲しみそして様々な感情が入り混じる中、少年は泣き叫んだ。

 

「!!」

 

大量の汗を額に浮かべ、自室のベットから前嶋は飛び起きた。

またしてもあの悪夢・・・・・。

過去に刻みつけられた様々な惨劇。

それが今でも昨日の出来事のように悪夢となり、鮮明に蘇っては前嶋を苦しめ続ける。

前嶋はあまりの辛さに顔を隠すように片手で覆った。

 

 

・・・翌日。 米海軍硫黄島基地 前嶋自室

 

「私に話って何ですか?マエジマさん。」

 

「はい・・・」

 

今日はたまたま執務が少なく早めに仕事が片付いたテッサは

前嶋から『話があるから部屋へ来てほしい』と呼び出しを受けたのだった。

呼び出しを受けた理由としては今回は執務が早く終わったと言う事と

前嶋の様子がおかしく感じ取れた為だった。

部屋へと招かれ、彼が出してきた椅子に腰を落ち着けるとテッサは前嶋に訊ねたのだった。

 

「以前、過去の事を少し話しましたね・・・」

 

「・・・えぇ。」

 

「これだけは話しておかなければならないと思いまして・・・」

 

「そうですか・・・では、話してもらえますか?・・・」

 

テッサの返答を聞くと、前嶋は少し間を置いて静かに口を開いた。

 

「あれは今から6年前の事です・・・自分は当時14歳でした・・・」

 

 

………6年前。

 

ロシア連邦 エルボガチェン付近

 

雪が降り積もり、木々か密集している密林地帯。

前嶋(当時14歳)は歯を食いしばり左脇腹の傷口を右手でおさえ、おぼつかない足取りで歩いていた。

前回、バイニヒツの部隊との戦闘時に負傷していたのだ。

敵部隊は残らず殲滅したものの、傷は予想以上に深かった。

最低限の応急処置を施そうにも道具がなく、現在の所持品は殺した敵兵から奪取したサバイバルナイフ。

同じく奪取したベレッタ92Fと予備マガジン3丁、服装も敵兵の私物から奪取したダークグリーンのロングコート。

同じくしてジーンズ系ズボンと白のTシャツ。

服装も最低限のものだけでとてもロシアに適した服装ではない。

しかし、傷口から流れる血でダークグリーンのコートは深紅に染まっていく。

 

「…く…そぉ……」

 

出血多量か幾度かに重なる極度の疲労からか…

どちらかはわからないが、前嶋は膝を雪の上に落とし、

急に力が抜けたかのようにうつ伏せに倒た。

序々に薄れていく意識。

失われた血液量に比例して力が入らなくなっていく。

 

(まだ死ぬわけには…)

 

前嶋は体を這わせるようにして、前進する。

片腕を前に伸ばして前へ前へと進もうとする。

しかし、極度の過労・出血量の多さが前嶋の体を鉄の塊みたいに重たくする。

やがて前嶋は意識を失った。

 

「……!!」

 

意識を取り戻した前嶋はすぐに飛び起きた。

そして、注意深く周囲を見渡した。

どうやらソファーに寝かされていたらしく

近くには暖炉やテーブルがあり、外見上はどう見ても普通の民家だ。

しかも、最低限の治療が施されている。

上半身、裸で傷のあった箇所には包帯が巻かれている。

そして、持ち物は全てソファーのそばにあるテーブルに置かれていた。

前嶋はテーブルの上に置かれているベレッタ92Fに手を伸ばして取ると銃をスライドさせた。

そして、注意深く周囲を見回しながらもソファーから立ち上がって、慎重に1歩踏み出した。

 

………ギッ………

 

床が痛んでいる独特の音が鳴る。

前嶋が2歩目を踏み出そうとした瞬間、前嶋の背後で声がした。

 

「あ、気が付いたんだね。」

 

「!!」

 

少女の声がした時“しまった”と思った前嶋はその瞬間、

振り返ると同時に素早く銃口を向けた。

引き金を引くまでには至らないが、たとえ相手がどんな人間でも前嶋は警戒する。

最悪の場合は民間人になりすました殺し屋又は敵の下っ端かもしれないからだ。

 

「きゃっ…」

 

突然、銃口を向けられた少女は小さな悲鳴をあげると同時におぼんを落とした。

落ちたお盆の上には白いコップがのせられていたらしく

コップが鈍い音を発てて倒れるとなにやらスープらしきものがこぼれた。

前嶋は銃口を向けた相手を確認すると少し落ち着いてから『すまない』と

謝罪して、銃口を下ろした。

しかし、これでも前嶋はまだ警戒している。

彼の頭で考えられる範囲で様々な最悪パターンを検索して、

すぐに対応できるように考慮するからである。

少女は前嶋が謝罪すると

 

『また入れ直してくるから、そこで待ってて』

 

と言って微笑むとこぼしたスープを雑巾で拭き取り、スープを拭き終えると再び部屋の奥へと姿を消した。

前嶋は銃をしまうと少女の言った通り、ソファーに腰を降ろして待った。

そして、しばらくすると少女は別のカップにスープを入れ直してきてそのカップを前嶋に手渡した。

 

「………」

 

前嶋はカップを受け取るとジッとスープを見つめた。

まだ疑っているのである。

 

「……毒は入ってないよ。」

 

まるで前嶋の考えが読めたかのように少女が言う。

前嶋は一瞬“ギョッ”とすると冷や汗を垂らしながらもコップに口を付けて、温かいスープをすすった。

 

・・・・・・・・・・・。

 

「…何故、助けた。」

 

ある程度 スープを飲んだ前嶋は口を開いた。

前嶋の質問に少女は“きょとん”とすると微笑んで答えた。

 

「クスッ…なんでって、当然でしょ?」

 

「……そうか。」

 

(どうやら、彼女は人助けが当たり前のようだな…)

 

前嶋はそう解釈すると再度スープをすすった。

 

「そうかって、なんでも簡単に片付けるんだね。」

 

「・・・・そうだ。」

 

少女の質問に対して前嶋は平然と答えた。

彼にとっては当たり前の事で、人との関わり合いを避ける為にあまり会話を交わさないようにしている。

返ってそれは少女にとっては少しばかり気に入らなかったのだ。

 

「どうしてなの?」

 

と少女が問いかけるが、前嶋は無言でスープを飲み干し

 

「……美味かった。」

 

と言い少女の顔を見ずにコップを差し出した。

 

「クスッ、わかった…女の子と話すのが苦手なんでしょ。」

 

前嶋はその言葉に図星のごとく、頬を赤くして冷や汗を垂らして石化し

挙句の果てにコップまで落とした。

少女は前嶋の様子を見てクスッと笑い、

コップを拾うとまた部屋の奥へと姿を消した。

 

その瞬間だった。

 

突如、前嶋めがけてマシンガンの掃射が襲った。

窓ガラスを突き破り、床や机に弾が着弾して物が粉々に舞う。

掃射が襲う3秒前にこの事態を察知していた前嶋は素早く飛び込み前転で物陰へと隠れ、身を潜めた。

事態を察知できたのは、今までの経験からでもあり、微弱な殺気であろうと敏感に反応できるからでもある。

むしろ警戒状態の前嶋から言わせれば朝飯前である。

 

掃射数から計算すると人数は5人程。

使用している銃器は全員が統一しているようである。

 

(銃はドイツ製のH&K MP5KA5か…

 この銃を使用していると言う事は……

 射撃を正確にして仕留め易くする為か…いや、これは素人の考えだ。

 確かに命中精度においての信頼性は高いがピストル弾の為に射程が短い。

 だが、小型で比較的振り回し易い…そうすると突入してくる確率は99%。

 この銃を使用しているからにはずっと外で打ち合うような馬鹿ではないはずだ。

 それに俺1人に対象を絞れば2秒後にでも突入は可能だ。)

 

そう想定した前嶋は周囲を見渡した。

特に武器になりそうにな物は見当たらない。

前嶋は武器調達も含めて少女の向かった部屋の奥へと足を進めた。

しかし、前嶋の足はすぐに止まった。

 

(…とりあえずは武器調達だ。現状として、弾は節約したいからな。

 それと…彼女を助ける必要はあるのか?

 よく考えてみれば一般の素人を装った暗殺部隊の隊員かもしれない。

 最初は一般の素人として奴らに殺される確率を推測したが、

 もし、奴らの仲間だとすれば…殺される事はまずない。

 それらが本当に事実としても、俺が殺される事もない…

 理由は……俺を殺すにしては数が少なすぎるからだ。)

 

そう考えた前嶋は再度、部屋の奥へと駆け出した。

前嶋の推測が正しければそこはキッチンで最低限の武器は確保可能だ。

最低でも殺傷能力がある包丁等が確保できるからだ。

包丁は1回のみの格闘戦に使用でき、果物ナイフ関連なら投げナイフ程度にはなるだろう。

だが、連中が1ヶ所から侵入したとは考えにくいが、

少なくとも連中が侵入した場所より比較的に遠く、

連中が既にいるとは考えにくい。前嶋が予測した例外を除けば。

 

 

奥の部屋はキッチンになっていてが、ただ推測が1つ外れていた。

キッチンのすぐ側にある扉から侵入してきていた兵士が少女を人質に取っていたのである。

…前嶋は完全に家の敷地内を把握できているわけがないが、

“裏口”の存在を推測し忘れていたのだ。

 

前嶋が駆けて来ると兵士は『動くとコイツの頭を撃ち抜くぞ』と少女に銃を突き付けて前嶋を脅した。

 

(…俺の推測がはずれるとはな、こいつらをかなりみくびってようだな。

 だが、推測がはずれただけで現状としてはなんの変わりも無い。

 それがたとえ、その少女を盾にしようとな……)

 

前嶋は『殺したければ殺すがいいさ、俺には関係のない事だ』と

相手の精神を煽り、一瞬、戸惑いを見せた兵士めがけて突撃していった。

知り合ったばかりの少女が殺されようが殺されまいが関係ないのだ。

前嶋にとってはそれが当たり前。

だから、こんな台詞を口にするのも当然である。

それに前嶋から見れば人質をとる兵士など未熟な証拠だと判断し

なんの躊躇もなく相手に向かっていくのだ。

 

前嶋に恐怖した兵士は銃口を前嶋に向けて発砲しようとする。

手が微かに震えて照準がなかなか定まらない。

その間に前嶋は兵士の近距離まで迫り、回し蹴りを放つ。

前嶋の蹴りは少女の頭上を通過し、兵士の顎にクリーンヒットする。

最も脳を揺らすと言われる顎を直撃した兵士は一発でダウンし、気絶した。

 

前嶋は気絶している兵士から武器を奪うと容赦なくトドメを刺す。

そして、乾いた銃声が一発。

気絶した兵士の額に風穴が開き、前嶋は『相手にならないな』と悪態を吐いた。

 

解放された少女はその場に座り込んでポカンとしていた。

何が起こったのか状況が飲み込めていない。そんな表情をしていた。

 

前嶋は溜め息を吐くと『・・・行くぞ』と少女に向かって言った。

少女は『あ…』と小さく声を漏らすと前嶋の方へとパタパタと駆けて来る。

前嶋は銃を構えたまま慎重に進み、先程の暖炉がある部屋へと戻ってくる。

 

………敵はいないようだ。

 

念の為に後方…先程の部屋も警戒し、後方にも問題がない事を直接 自分の目で確認する。

そして、前嶋が視点を下に落とせば微かに体を震わせて怯える少女がいる。

 

先程からピッタリと前嶋の後ろにいる。

無理もない、あれだけの事をされれば一般人としては充分過ぎるほど怖い。

一瞬だけとはいえ、自分が死ぬかもしれないと言う恐怖感が全身を支配し

精神が極限状態に追い込まれた挙句その感覚が抜けないのだろう。

そして、敵兵とは言えど人間が…人が目の前で死んだ。

これは彼女にとってはあまり不安要素にはならないはずだが、

受け入れ難い現実を目の前にその効果が効いてしまっているようだ。

そして、その効果が“死ぬかもしれない”と言う恐怖感を扇ぐ。

 

前嶋はそんに少女を見て一言。

『安心しろ、死なせはしない』と気休め程度に言う。

少女は若干、不安げな表情をしつつも“コクッ”と小さく頷いた。

そこへ先程の兵士と同じ格好をした連中が駆けてくる。

真っ直ぐこっちに……数は4人。推測通りだ。

 

前嶋は目の前にあったテーブルをたてて、テーブルを盾にする。

そこへ少女を入れて確実に身柄の安全を確保する。

そして、奪った武器を素早く構える。

 

聞こえてくる足音を頼りに…

前嶋は一瞬の覚悟を決めてテーブルから身を乗り出し、素早く武器のトリガーを引いた。

連続した小さな発射音と同時に自動小銃が火を吹く。

空薬莢が宙を舞い、地に落ちる乾いた金属音。

……そして鈍い着弾音。

 

どうやら命中したようだ。

しかし、殺ってもいない……

おそらく着弾した相手は生命の危機に瀕しているだろう。

あえて言うなら前嶋が狙った急所は外れたと言う事だ。

 

「ッ!」

 

前嶋は舌打ちすると今度は素早くテーブルに潜り込み、相手の反撃を回避する。

テーブルの真上を弾が通過し壁に着弾する。

そして、前嶋が反撃する。

言うまででもないが、今度は別の敵にほぼ一瞬の間に照準を合わせ

確実に仕留めるように…敵の目に直撃させた。

無論、敵はヘルメットを被っている。

先程の相手は倒れていたから容易に額に風穴を作ってやれたものの

今度はそうにはいかない。それに9mmパラベラム弾では貫通などしない。

もっとも、強装弾なら多少は話が違うが…。

 

その為、目の反射光を狙ったと言うわけだ、目を狙った理由も簡単だ。

即死狙いである。

しかし運よく生存できたとしても確実に失明だ。

そう言った点を現状況と考慮すると少女の家から脱出しても途中で息絶えると言うわけだ。

よほど運がよくて確実な計画をたてていなければ生存はありえない。

 

再度、テーブルに潜り込んだ前嶋はマガジンを入れ替えて弾を装填する。

 

(次で終わらせてやる……こんな遊びにダラダラ付き合っている暇はない。)

 

前嶋はテーブルの横から身を乗り出した。

敵は不意を突かれ、照準を合わせ直すに時間が必要となった。

しかし、前嶋は初めから照準を合わせてあったのでそのムダはなく

この撃ち合いに決着がついた。

残りの2人も首を撃たれ死亡。

急所をはずれ、激痛に悶える敵も懇願の甲斐なく前嶋にトドメを刺され死亡。

よって敵は全員死亡。明らかに前嶋の勝ちだ。

自分が殺って屍と化した敵兵を無言で見つめる前嶋。

 

……前嶋が勝利して当然だった。

前嶋から言わせれば今回の敵は対応が素人過ぎて相手にならなかった。

弾を避ける動作・瞬間的な判断能力・照準の正確さ。

どれも軍隊に所属していた者のレベルに値しない。

前嶋が余裕すら持てて、危機感すら感じなかった相手に負ける理由がないのだ。

 

「死んだの?」

 

そこへ少女が不意に話し掛けた。

声を掛けられ目線を少女へと向けて無言のままの前嶋。

その目は凍りついていてその冷気みたいな冷たい目線で恐怖感を扇がれる。

前嶋が怖く感じた少女は『えと…』と躊躇いながらも1歩後退る。

そんな少女を見て、前嶋はため息を漏らして

 

「死体が見たくないなら他の部屋にいろ、コレは俺が片付けておく。」

 

と言い放った。

しかし、少女はその言葉を聞いて首を横に振った。

そして一言『どうして殺すの?』と前嶋に訊ねると

前嶋はあっさり『正当防衛だ』と言い返し、魂無き亡骸を片付け始めた。

装備品と衣類を外し、下着姿にしてから外に放り投げる。

利用できるものは全て利用する為である。

黙々と死骸を片付ける前嶋をよそに少女は立ち尽くしていた。

先程の出来事での怖さもあったが、彼・前嶋が顔色一つも変える事無く

平然と人を殺し、その屍を片付け挙句の果てに人殺しが『正当防衛』と

言い放つ彼を見ていて恐ろしくなったのだ。

 

確かにあの状況下では仕方がないが……。

 

やがて死骸を片付け終えた前嶋が立ち上がり、少女の方へと向く。

少女は思わず1歩退いてしまった。

 

しかし、それを見た前嶋は気にする事無く、自分の荷物をまとめ始めた。

 






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