【新しい季節】
蒼い空に浮かぶ白い雲が静かに流れていく。
太陽が雲に隠れたり出たりを繰り返し暖かな陽光を降り注がせる。
風が木々を揺らし陽光と共に窓から吹き込む。
白いレースのカーテンが靡き、一人の少年が目を覚ました。
「・・・・・・朝か」
眩しそうに窓を見つめ静かに起きる。
椅子に凭れ掛ろうとした時、ドアをノックする音が聞こえ返事を返すと 一人の女性が姿を現した。
彼女は少年を優しさに溢れた瞳で近づいて行く。
「おはよう、龍」
「美奈子……何で家に居るの?」
「何でって?昨日から二人で暮らすって言ったじゃない」
「どうりで自分の部屋じゃないのか」
何かを思い出したかのように微笑む彼は、美奈子にゴメンと一言謝ると頬に軽くキスをした。
美奈子は突然の行動に驚いたものの恥ずかしさと嬉しさで胸がいっぱいだった。
食事の支度が出来ているからと言うと逃げるようにして部屋を出て行ってしまった。
龍は“我ながら何してるのやら”と思いつつ着替えをする。
「へぇ〜、良い香りだねぇ」
「朝はしっかり食べないと力が出ないから……」
「どうかしたのか?顔が赤いけど風邪でも引いたのか?」
「………」
彼は顔を紅潮させモジモジしている美奈子に冗談交じりで意地悪をしてみたくなりワザと知らない振りをした。
美奈子は恨めしそうな目で龍を見ていたが、逆に彼に見つめられてしまい更に紅くなってしまう。
そんな彼女が可笑しかったのか、軽く笑い出し椅子に座る。
「もう、本当は分かってるクセに……。朝からあんな事されたら普通は恥ずかしいものなのよ」
「クス♪ゴメン、ゴメン。でも美奈子がキスして欲しそうな顔してたからついね♪」
「ば、馬鹿!そんなわけないじゃない!」
「はいはい、じゃ、御飯が冷めない内に頂きますか?せっかく美奈子が作ってくれたんだし」
「馬鹿……」
美奈子の内心は嬉しさのあまり抱き付きたかったのだが彼に勘違いされるのが嫌だったらしく敢えて我慢していた。
楽しく会話をしながら食事をしていると不意に美奈子が“彼女”の名前を口に出した。
言ってしまってから気付いた美奈子は彼の顔を恐る恐る見てみる。
しかし、龍の表情は穏やかで怒っているよりも懐かしむような顔をしていた。
「そっか、アイツが亡くなってからそんなに経つんだねぇ」
「龍、怒ってないの?」
「何で?」
「だって………」
瞳を潤ませ肩を落している美奈子の髪をそっと梳ると耳元で優しく言い聞かせた。
甘い息遣いに少し戸惑っていたが、彼の口から聞いた囁きに涙が頬を伝った。
龍は顔を真っ赤に染めてニッコリと微笑み美奈子を抱き寄せた。
彼女は龍の胸で小さく震え涙を流し勘違いをしていた自分を後悔していた。
「ほら、もう泣くなって」
「だって……だって、私ったら龍が今でも雪奈の事だけしか愛してないって思ってばかりで……
龍の事を遠ざけてた……私の中に彼女を求めているんだって」
「はぁ、そーいう事か。あのね美奈子、別に俺はお前にアイツの面影とかを重ねて
付き合って来たわけじゃないよ。本当に好きだと思ったから プロポーズをOKしたんだぜ」
「ゴメン、ゴメンナサイ……」
ただ謝る彼女を愛しむように嘘偽りの無い優しさで包み込む。
それからしばしの時間の流れようやく泣き止んでくれた美奈子を外へ行こうと誘った。
暖かい風が通り抜けサクラの花びらが宙を舞っていた。
「綺麗……こんな所があったなんて」
「どう?気に入って貰えたかな?」
「龍、ここは?」
「友達に教えて貰ったのさ。桜並木がある所をね♪」
軽くウインクをすると彼女の手を握り、その並木道を歩いて行く。
風が吹くたびにサクラが舞い二人を祝福しているように見えた。
ほんの少し前までは寒い冬だったのに何時の間にか暖かい春の季節となっていた。
「龍……」
「ん?何?」
「これからも、ずっと一緒だよね♪」
「あぁ、ずっと一緒だ」
立ち止まりお互いの気持ちを確かめるようにキスをする。
それは長く甘いキス………
二人が結ばれる日も、そう遠くないようだ。
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