スクランブル・エッグ


今日は朝からぐっちゃぐちゃ。

元々あたしは起きぬけには弱い。だけど、それにしたって今日は格別だ。

お風呂に入った後乾かさなかった髪はこんがらがってるし、目覚ましの助けも無しに夢見の悪さで目が覚めてしまうし。

せっかく目玉焼きでも作ろうかと思ったのに、黄身が破けて結局はスクランブルエッグになってしまった。

あたしの頭の中と一緒。

あーあ。

何か投げやりな気分で、フライパンの中身を滅茶苦茶にかき回す。

全く、混ざるのは一瞬なのよね。

白と黄色と、あんなにハッキリしてたのに、混ぜてしまえば少し薄い黄色の出来上がり。

さいばしでお皿の上にかき出して、横に焼いたベーコンを添える。レタスとプチトマトを加えれば完成。

あーあ。

朝食は、まぁ多少の誤算はあったけど美味しそうに出来た。さすがはあたし。

おなかだって空いている。何しろ、昨日は晩御飯を食べてないのだから。

そうそう、頭の中だけに限って言えば、ぐっちゃぐちゃなのは昨日からなのだ。

何もかも、みーんなソースケのせいよ。

戦う事しか頭に無くて、勘違いも多いけど頼りになる傭兵。戦争ボケであたしを見つめ何かを言おうと必死に言葉を探す朴念仁。

完璧に分かれていたはずなのに、混ざり合ってしまった。普段のソースケが・・・カッコ良く見える何て。

結局、あいつは何が言いたかったんだろ?

放課後の教室で、二人っきりで。

あの時生まれた妙な雰囲気に、思わずハリセンではたき倒しちゃったけど。

聞いておけば良かったかな。

今更だけど。

それに、あいつの事だからすっごく下らない事かもしれない。

これって早とちり?

そーよね、ただ、肩に手を置かれただけだし。

期待なんてしてないのよ。ただ、ちょっと引っかかるだけ。

あーあ。

今日が学校休みだったら良かったのに。

二日とは言わないから、せめて一日。全く顔を合わせなければ、頭の中のスクランブルエッグは元通りの黄身と白身に別れるのに。

どっちもソースケ。でも、ちょっと違う。

違うものだと認識していたのに、ちゃんと別けたのに。

あいつがカッコ良く見えるのは危ない場面でだけで、学校ではただの迷惑な同級生だったはず。そこではあたしの方が断然強い。

それなのに。

テーブルに頬杖ついて、お皿の上のスクランブルエッグをお箸でつつく。

あーあ、ぐっちゃぐちゃ。

全部ソースケが悪いのよ。急に真面目な顔しちゃって。

『聞いて欲しい話がある』なんて。バカじゃないの?

大体、不公平じゃない。あたしばっかり悩んで、どうせあいつは何時も通りのむっつり顔で『おはよう』って言うんだろうから。

今から頭痛いわ。

唐突に、ケータイのベルが鳴った。弾かれたように顔を上げる。着メロで、確認なんかしなくたって相手が分かる。

ソースケからだ。

無視してやろうかとも思ったんだけど、ちょっと可哀相だし。

仕方ないから出てやった。

「もしもし」

『千鳥?・・・もう、起きていたのか?』

「何よ、起きてちゃ悪い?」

第一、寝てるかもしれないと予想した相手に、朝っぱらから電話かけてくるって?脳みその代わりに火薬がつまってんじゃない?

『い、いや、そんな事は無いのだが・・・』

案の定、困ったような返事。うふふ、ばーか。

そうだ、もう一回別けなおそうか。スクランブルエッグを黄身と白身に別けるのは無理だけど、こっちの方は気の持ちよう。

そうすれば前と同じ、ソースケにとって『怖くて逆らえない同級生』の出来上がり。

うん、簡単そう。

『その・・・大丈夫か?』

「は?何が?」

意味が分からない。何。何が言いたいの?

『いや・・・その・・・俺のせいで君が・・・』

「は?」

『・・・君が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でもない』

へぇ。朝っぱらから人に電話をしておきながら、『何でもない』で済まそうってワケ。そうは問屋が卸さないわよ。

「言いなさい」

『・・・だが』

「い・い・な・さ・い」

『君は・・・怒るだろう?』

「聞いてみないと分からないでしょーが」

でも分かってる。ソースケがこういう言い方をする時は、絶対あたしが怒る時なのよね。

『・・・その・・・昨日の事なのだが・・・』

げ。何よ、せっかく別ける努力してんのに、結局そこに戻るワケ?

『・・・・・・・君が・・・俺の突発的な行動のせいで・・・何と言うか・・・考え込んでいないかとだな・・・』

何よ。何よ何よ何よ何よ、ソレ

突発的?何なのよ。

「・・・つまり、あんたは、ちょっとした気の迷いだったって言いたいのね」

別に、何もなかったけど。

ただ、ドラマとかマンガに出て来るシチュエーションに似てただけだけど。

あの後に起こる事を想像しただけだけど。

でも、それでも。

否定されるのはやっぱり頭に来る。

『ちっ、違う。断じて違う。だが、君は・・・俺の話など聞きたくなかったのだろう?』

ああ、そうだっけ。黄身を破いたのも、ぐっちゃぐちゃにかき混ぜたのも、元はと言えばあたし。

「・・・・べつに・・・そうじゃないわよ」

『だが』

そーだ。こいつに『照れ隠し』何てカワイイ物は通用しないんだ。

どうしよっかな。

テーブルの上には湯気の立つスクランブルエッグ。

・・・・・・・・・・よし。

「学校行くまでまだ時間があるから、今から家に来なさいよ」

『?何故』

しょーがないわね。分かんないのかしら。

「昨日の話、聞いてやるって言ってんの。・・・あんたにもし、まだあたしに聞かせる気力があるなら・・・ね」

突然、耳元で電話が切られた。

分かってる。きっと走って、大急ぎでこっちに向って来てる。

さーてと。もう一人分、朝ごはん作らなきゃ。

あたしの予想は、外れかもしれない。ソースケは、本当にどうでも良い話をしに来るかも。

でも良いじゃない。一人の朝食が二人になった。それだけでも。

ボールに卵を割り入れて、今度は最初からそのつもりで作るのよ。

チャイムの音。あら、早いわね。

笑いながら、ボールを片手に玄関に向かう。

たまには、スクランブルエッグも良いかもね。






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