【最後の戦い】

 


雲一つなく晴れている青空。

静かに吹き抜けて行く教室には、教師の声と道路を走り去る車の音だけが聞こえてくる。

季節はもう秋となり涼しい時を迎えていた。

青々しかった木々の葉はたくさんの色に染まり、音も無くヒラリと地面に舞い落ち風で
飛ばされるのを楽しんでいるようにも見えた。

そんな中、一人の少年は退屈そうにノートに落書きをしていた。

 

「はぁ……退屈」

 

そう独り言を呟き、机の右側に置いてある魔術語が書かれている書物も見て魔法陣を書いたり、
日本語に直訳したりと暇な授業聞いてるフリをした。

しばらくすると終業のチャイムが鳴り響き教室内はざわめき始め、
五月蝿いと思った少年は廊下へ出ようとしたとき、ふと誰かに呼ばれた気がして振り向いた。

クラスメート達は世間話などに夢中で少年を呼んだとは思えない。

きっと自分の空耳なんだろうなと思い廊下に出て水飲み場に行った。

 

「どうも、アイツ等と居ると気が滅入るんだよな。まぁ、友達でもないしクラスメートって認めた覚えもないし、仕方ないか」

 

彼は軽い溜息を吐くと蛇口を捻った瞬間、各教室から何かが割れる音が響いた。

驚いた少年は自分の教室へと戻ったが、そこで目にしたものは信じられない光景だった。

窓ガラスが割れ霧散し、生徒たちに無数のガラス片が突き刺さっているのだ。

彼は慌てて職員室に行き救急車の要請をし、自分が出来る限りの応急手当などを出血の酷い者から手当てをしていった。

そんな修羅場の状態が続く中で、一瞬空に閃光が走った。

雷雲もないというのに轟音が鳴り響き定期的に光を発している。

不思議に思った彼は空の一点を集中的に見つめた。

最初はただの光は、やがて二人の人らしきものが争っている姿が映し出されたかと思うと
急に突風が巻き起こり少年を吹き飛ばした。

飛ばされた少年は壁に激しく叩きつけられ、その衝撃で後頭部を強打し嫌な音が鳴った。

少年は引き摺られるように床に横になり血の水溜りができ、彼の近くにいた女子生徒が話し掛けても身動き一つしない。

どうやら、叩きつけられた衝撃が大きかった為に頚椎あるいは首の骨を折ってしまったようだ。

 

「で、早い話がここは何処?」

 

彼が次に目を開いた時そこは大きなドラゴンの石像が雄々しく立ち、こちらを見ているようだった。

翼を大きく広げ、その熱い炎が燃え盛るような瞳で少年を見ているようにも見える。

彼は死んだのかな?と思い首を傾げていると、頭の中に低い男の声が聞こえてきた。

しかし、周囲を見回しても誰もいるはずもなく、自分の目の前に立っている像が
話しかけているようにしか思えなかった。

とりあえず前に向き直り、ドラゴンの像の前に座った。

 

我が声が聞こえし者よ…汝が欲しい物は何だ

「“力”かな?けど大切なモノを守れる力じゃないならいらない」

何故、“力”を求む?

「人ン家、世界で好き勝手やってる馬鹿二人に説教とお仕置きしてやらないと気が済まないから」

それだけか…

「それともう一つ。俺が大切にしてる人とかを傷付けられるのは嫌なんでね」

だから“力”を求むのか

「俺は“人を守る者”…つまり盾だから大切な者を傷付けたり奪ったりする奴だけは許さない!」

 

彼は石像に向かって強い意志で自分の想いを伝える。

そして彼の周囲を取り巻いていた暗い空間は少年の心の煌きを
現すが如く純白の光を放ち、少年を包み込んだ。

 

汝の名は?

「西音寺 龍…いや、龍威旋だ!」

龍威旋よ、汝に我が力を与えよう。我が名はヴェルゼア…心龍皇ヴェルゼア

 

やがて彼の意識は現世へと戻ったかと思うと、巨大な翼を携え外へと飛び出していく。

彼は腰の剣を引き抜くと勢い良く振り下ろした。

白い閃光が二人目掛けて襲い掛かる。

 

「何者だ!我等の戦いを邪魔するものは!」

「てかね、人の住む世界を巻き込んで争ってるあんた達こそ何者だよ」

「我等は神界の王を決める戦いをしているのだ。貴様如きの人間が出てこれる所ではない!」

 

龍は興味が無いと言って至高の神だと名乗る片方の背後に回り剣を振り下ろす。

驚異的なスピードとは言え、それを予測していたかの如く受け止める。

 

「小僧!その程度で我等に刃向かうつもりか」

「まだ、これからがある人達の為にどの程度だろうとあんた達を倒す!」

「笑止!人間など死んでも虫のように湧いてくるのだ、ここで大勢の人間が死のうと我等の知った事ではない」

「貴様、それでも神か!!」

 

怒鳴ると、龍は怒りにまかせて稲妻を帯びた斬撃を繰り出した。

光よりも速く風のように鋭い剣閃は次々と二人の神に傷を負わせていく。

至高の神と名乗る者達が、人を虫ケラ扱いした。それが龍の逆鱗に触れ本来の力を呼び醒ましたのだ。

龍の攻撃に翻弄され続ける神々は神術を放ち、彼を吹き飛ばした。

しかし、龍は怯む事無く斬撃を繰り出し、背後からの攻撃もまるで背中に目があるように難なく避けてみせる。

 

「「図に乗るな、人間がぁ!!」」

「っ!?」

 

二人の神の声が揃ったと瞬間―――

巨大な光の爆発が起き、龍は地面へと叩き付けられた。

そして、次から次へと容赦のない攻撃が龍を襲った。

地面が裂け金剛のように硬くなった氷塊が龍を突き上げたと思うと、今度は空から鉛のような風の衝撃が彼を襲った。

縦横無尽に四方八方からの攻撃に翻弄される龍は再び地面へと叩き付けられ体がアスファルトの中にめり込んだ。

全身に激痛が走り視界が歪む。

そんな状態で龍の目に映るのは周囲の人達を無慈悲にも惨殺していく堕ちた邪神の姿だった。

聞こえてくる悲鳴。何も見えない人達はただ逃げ惑う。

龍は必死に体を起き上がらせようとしたが、酷い激痛が神経系統を全て支配し、思う様には動いてくれない。

それでも立ち上がり、精一杯に聖術を放った。

 

「守らないと……絶…対…に……守らないと…これ…以上……失ってたまるかよ!!」

 

龍は大声で叫び、強引に体を起き上がらせると全身から眩い光が溢れ出す。

その光は龍の怪我や傷を癒していき溢れんばかりの力が全身に漲る。

重く感じた身体は羽のような身軽さとなり、軽く地面を蹴っただけで一瞬にして神々との間合いを詰めた。

怒り狂った神々は最早、我を忘れて龍に襲い掛かった。

時空を斬り裂き、天空を揺るがし激戦を繰り広げる。

そんな時、龍の翼が紫と変色し二人の神々が弾き飛ばされた。

彼は空に向かって声を上げたが、それはまさしくドラゴンの咆哮と同じものだった。

龍の吼き声は天や地を激しく揺らし、それたと同時に二つの剣が目の前に出現し融合をした。

 

「あの剣は!!」

「馬鹿な!あの剣は数千年前の戦いで砕け散ったはず!何故にここにあるのだ!」

 

二人の神々は出現した剣にただ慌てるあまりに彼の繰り出す剣閃を防ぐ事を疎かにする。

その剣の輝きは神々しく金色の光を放ち、あの時の大戦で自らを犠牲に仲間を守った心龍皇を思い出させる。

彼の心の中で密かに生きているヴェルゼアは心剣と共鳴し力を注ぎ込んだ。

 

「かつての神龍大戦で失われたはずの心剣。これが何を意味するのか分かる?」

「ありえん!たかが人間がその“心龍神帝の蒼剣”を手にする事などあってはならん事だ!!」

 

4枚の翼を纏った若き神は龍を指差し憤怒した。

神龍大戦とは、地球が誕生してから間もない頃に神界の神々達が地球を滅ぼそうと地上へと舞い降りた。

それを阻止すべく龍皇界の者達が神々と対峙し地上では星全体の存亡を掛けた戦いが繰り広げられたのだ。

しかし、戦況は龍皇界の劣勢の状態が続き、そんな絶望に浸るドラゴン達に想う気持ちが
大切なのだという事を示そうとした一人の龍皇が自らの命と引き換えに神軍へと突進し宇宙を守った。

その龍皇の犠牲により龍皇界の勝利となりこの地球は守られた。

だが、その神龍大戦で彼が使った剣は粉々に砕け散り再生は不可能となり、またヴェルゼア自身の魂の転生は不可能だろうと囁かれる中、彼は薄れ行く意識の中で奇跡的に転生術をし、砕けた剣を「天の心剣」・「地の真剣」の二つに分け地上に残していたのだ。

二人の神々は心底に震え上がり逸早く彼を抹殺しようと全力で神術などを放つ。

 

「天を駆け巡る数多なる星々達よ 地を翔ける聖獣達よ……」

 

龍の詠唱が始まった。

一刻も早く食い止めなければという焦燥感に狩られた神々の攻撃は
全て彼に当たる寸前で弾かれ傷一つ付ける事すら出来ない。

闇雲に剣を振り回しデタラメに神術を放つ。

もはや気が動転しすぎてどうしたら良いのか判断も出来ないほどに焦った。

 

「大地を滅ぼさんとする者達に その魂の煌きを持って 真なる裁きを与えん事を!
マスター・オブ・ドラゴンハート」

 

全ての属性を纏った光はドラゴンの姿へと変え、二人の神々を飲み込んだ。

そして彼は破壊された建物などを復元し、さらにはこの戦いで出た死者の蘇生を施した。

もう人間には戻れない。

守ると誓ったあの時から覚悟はしていた。

龍は聖術を唱え龍皇界の扉を開き、その中へと消えていった。

 

この日から数十年、数百年を時が経ったが誰一人として彼の事を知る者はおらず、
また語り継がれる事なく最初からこの平和があったような顔で生きていった。

 

 

 

 

 

 

おわり





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