【RUIN】

 

 

灰色の雲が空を覆い尽くし稲光を走らせている。

そんな天候にも関わらず騒がし過ぎる教室の窓際に一人静かに空を見上げる少年が居た。

騒ぐ事もせず、轟音を鳴り響かせる空を見つめているだけ。

ただ頬杖して溜息を吐くばかりで誰かに話かけられても返事も振り返る事もしないで空ばかりを眺め続けた。

そんな時、彼の席が大きな音を立てて右側へ倒れる。

 

「いってぇ……」

「よぉ、西音寺。目ぇ覚めたかよ?」

 

不良のような格好した人が立っていた。

多分、彼が机を思い切り蹴り飛ばしたのだろう。

 

「ってぇな!何すんだよっ!!」

「テメェがボケッとしてるから悪りぃだろうが!!」

 

文句を言いつつも蹴り飛ばされた机を元に戻し散らばった教科書や筆記用具を片付ける。

ある程度、片付けが終ると再び椅子に座り胸ポケットに手を当てた彼の顔が青褪めていった。

慌てて立ち上がると周囲を見回し地面に這い蹲るように教室内を探し回った。

 

「ないっ!ないっ!何処にもない!!さっきまで確かに胸ポケットの中にあったのに!!」

 

必死で教室内を探していると誰かに背中を踏み圧された。

その足強引に振り解こうと身体を捻らせる。

簡単に振り解けたと思ったら今度は数人掛りで床に押し倒され、手足を差し押さえられた。

これでは身動き一つ出来ないと感じた彼は自分の目の前に立ち見下している奴を睨み付けた。

 

「何すんだよ!!お前等の相手なんて…ぐっ!!」

「お前の探しモンはコレか?」

 

ニヤケた顔で紅いルビーを彼の前でチラつかせた。

他の生徒もクスクスと笑うばかりで誰一人助けようとはしない。

何度も暴行が続く中、チャイムが鳴った。

しかし、教員が来る気配は全く感じられず、また生徒達も席に着こうともせずただ口々に彼を蔑む言葉を発しているだけ。

 

「返せよ!それはお前みたいな奴が持つ資格なんてねぇんだよ!!」

「こんな女々しい物がそんなに返して欲しいでちゅか〜」

 

ワザとからかう口調で挑発をしているが、もはやそんな事よりも目の前にあるルビーを取り戻そうと両腕に力を込める。

今にも相手を殺してしまいそうな位の殺気を放ちながら……。

 

「そーんなに返して欲しいなら返してやるよ」

 

腕を高々と振り上げ、手に持っている宝石を地面に叩き付けた。

ガラスが割れるような音を立てて砕けた次の瞬間……学校を揺るがすほどの悲鳴の声が轟いた。

抑え付けられている彼が発した声ではなく、その宝石から聞こえたのだ。

誰もが不気味に思っていると急に雷の轟音が鳴り響いた。

龍を抑え付けていた生徒達も弾き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 

「…よくも!!よくも砕いたなっ!!」

 

龍はそう言うと右手で手刀を打ち出すが如く突き出す。

そして……異常な速さで襲った攻撃は不良生徒の胸を貫いく。

傷口から溢れ出す血は勢い良く飛び散り龍の頬に滴り落ちてきた。

貫いた腕を強引に引き剥がすと床は血の海に染まっていく。

彼はその死体を見下し冷酷な瞳で睨みつけている。

教室内には様々な悲鳴が上がり外へ逃げようとする生徒達で溢れていたが何故か教室の扉が開かないのだ。

紅く鮮血のような稲光が何度も空を駆け巡り咆哮(轟音)を上げる。

 

「殺してやるっ!!貴様等、皆殺してやる!!」

 

怒り狂った猛獣のように龍は次々と逃げ惑う人達を殺していく。

 

憎いか?人間が憎いか?

何処からともなく声が聞こえた。

正確には自分自身の頭の中に響き直接語りかけてきている。

もうすでに何も考えられなくなるほどに憎悪の感情で胸も頭も一杯だった。

大切な人から貰った宝石を壊したアイツが憎かったが、それ以上に人を蔑む事しか知らないクラスメートが憎く怨めしかった。

憎いなら殺せ……怨めしいなら全て壊せ……そしたらお前は自由だ……

何もかも壊せ……全ての生けとして生ける者全て消せばいい……

語りかけてくる声も言葉も龍の耳には聞こえてはいない。

ただ目の前に居る憎く怨めしい者達をこの世から消し去る事しか考えていない。

 

「お前等さえ居なければ!!お前等さえ居なければ!!あの人も俺も幸せだったんだ!!それをお前等が全て奪ったんだ!!」

 

涙を流しながら攻撃を繰り出す。

その度に飛び散る血と悲鳴……。

何もかも壊さなければ、何もかも殺さなければ全てを奪わなければという衝動に駆られ自我を失い、殺戮を繰り返す。

やがて、数時間という時が流れた。

ようやく自我を取り戻した彼は豪雨が降り注ぐ中、積み上げられた屍の山に立ち狂ったように笑い続けた。

そして……またあの声が聞こえてきた。

人である事を捨て、殺戮と破壊を続けて地球を破滅へと導いてやると囁いた。

気が付けば背に漆黒の翼が生え額に一本の尖角(ホーン)が出現し、爪と牙が生えた。

ここから全てが夢の通りに始まる……。

名も無き一匹の悪魔の復讐が……。

 

 

 

おわり





▼BACK
            ▼ATOGAKI






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送