【NIGHTMARE】



漆黒の闇の中を一人の少年が歩いていた。

何も聞こえず、声も響かない。

どうして自分はこんな所にいるのだろ。

そもそもここは何処なのだろうかと思っていた。

叫んでも返事は返ってこない。

 

「誰も居ないのかな?」

 

少年は首を傾げながら歩き続けた。

どこまで歩いて行っても変わらない一色の黒色の風景ばかり。

この暗闇を少年は目に見えない“何か”を感じていたのだった。

そんな事を考えて歩いていると、後ろから足音が聞こえた。

だが、少年は絶対に振り向いてはいけないと何故かそう感じたのだ。

否、本能がそう告げていた。

少年の瞳には焦りの色が見え始めている。

どうしてだろうか?誰も居ないはずの空間の中に自分では無い誰かが歩いている音が聞こえる。

その足音は段々と早くなり少年へと近づいて来る。

少年も追いつかれまいと必死に走って逃げようとする。

しかし、その時、少年の足に何かが引っ掛かった。

違う。少年の足を黒い手が掴んでいたのだ。

少年は必死で振り解こうした。

懸命に足を振り上げ解こうするが、その黒い手の力は凄まじく激痛が走り
気が付くと両手足を掴まれていた。

 

「は、離せよ!!このっ!!このっ!!」

 

近づいてくる足音。

振り解く事の出来ない手。

何処からか湧いてくる焦燥感と不安感。

今にも泣き出しそうな位に恐怖心が駆り立てられる。

漆黒の闇から伸びてきたもう一つの手は、少年の心臓に突き刺さるようにして入り込んで来る。

突き刺さるように身体の中に侵食しているはずなのに痛みが無い。

それ所か無数の手が出現して少年の身体を除々に蝕んでいく。

やがて瞳が紅く染まり黒い翼が生え、頭には二本の尖角が生えていた。

どう見ても悪魔の姿だった。

 

それがお前の真の姿だ。

 

少年の頭の中に誰かの声が響いた。

辺りを見回すが誰も居ない。

 

お前の中に潜む憎悪が生み出したのだ。

「俺は人を憎んだ事も恨んだ事も無い!!」

嘘を言うな。

お前の心の中に長年蓄積された憎悪の感情。

いや、心の傷とでも言うのだろう?

「俺は別に傷ついてなんて………」

 

「傷ついて無い」と言いたかった。

しかし、それは嘘。

もし、今までの事で他人から受けた裏切りやイジメで心を傷めてないと言えば明らかな嘘なのだ。

本当は悲しかった、辛かった、誰も分かってくれなかったから、誰も気付いてはくれなかった事が。

だからいつからか自分を偽り人のイメージ通りの性格と無理矢理な笑顔を浮かべて
好い加減で弱い人間なのだと思わせる為の演技をしてきた。

それが自分の心を傷付ける原因だと知っていながら。

 

お前の心は崩壊寸前。

だから人を殺したい、壊したいという衝動に駆られた。

そして自殺をしたいという衝動にも駆られた。

違うか?

「確かにそうかも知れない。信じてる友達も仲間も裏切る事も見捨てる事もある。
けど、それでも信じるのが俺なんだ。誰が何と言おうと俺は信じ続ける」

しかし、これがお前の本当の願望では無いのか?

 

急に辺りが炎に包まれた。

その中に沢山の死体があり、山のように詰まれていた。

その死体の山の一番上に自分と同じ格好をした…いや、恐らくあれは自分自身なのだろう。

瞳から鮮血涙を流し右手で愛する人を串刺しにしていた。

 

「痛っ!!」

 

身体中に激痛が走り再び目を開けると、見慣れた天井が見えた。

 

「夢か………」

 

重たい体を起こしベッドから降りる。

 

「気持ち悪い」

 

汗臭いパジャマが肌にくっつき、より不快感を与える。

タオルと着替えを持つとシャワーを浴びようとお風呂場に向かった。

脱衣所の前の鏡で自分を見ながら服を脱ぐと信じられない姿が映っていた。

胸や肩と様々な所に変な紋様のようにアザが出来上がっていた。

一瞬驚いたものの今はシャワーを浴びる事だけを考え気に留めようともしなかった。

夢が現実世界に干渉する確立は12%と言われていて夢で起きた事が現実になる事を人は予知夢と言うが、
何かの紋様になってアザみたいな物が出来るというのは珍しい現象の一つでもある。

彼は自分の身体のあちこちを擦りながら深い溜息を吐いた。

気が付けば何時の間にかベランダの手擦りに寄り掛かって空に浮かぶ黄金の月を眺めていた。

 

「はぁ、何してるんだろうな?こんな事をしていても何も変わらないのに」

 

空を見上げ、一人落ち込んでいると不意に後ろから誰かに抱き付かれた。

しかし、何一つ動じる事なく今はその温もりを感じていたかった。

 

「龍くん、どうかしたの?」

「いや、別に。それよりも、そー言う沙織こそどうしたんだよ」

「わたしは龍くんが心配になったから」

「……」

 

空を眺めていた瞳をそっと閉じ今一番大切な人の存在を確かめるかのように彼女の手に自分の手を重ねた。

彼女が居ると自然と安心感が湧き涙が零れ落ちてくる。

少し嫌な事があったからと言って落ち込んでしまう自分の不甲斐無さと彼女に心配を掛けてしまう無力さを呪った。

 

「悲しい事があったんだね。泣いても良いんだよ、龍くんは今まで沢山の人の為に自分を犠牲にしてまで助けてきたんだから」

「……ごめん……ごめん、沙織……俺が情けないから……俺が弱いから……」

「違うよ、龍くん弱くなんてないよ。情けなくなんてない。だって、龍くんは優しすぎるから、
でもわたしはそんな龍くんが好き。だから自分をそんなに責めないで」

「…………」

 

彼女は少しだけ抱きしめている腕の力を強くして彼を安心させようとする。

小刻みに震えている身体をその優しさで包み込むように。

今まで見る事が出来なかった何かに怯える子供のように彼が泣いている姿を。

精一杯に強がって愛想笑いを浮かべ無理をしているのは知っていた。

けど、こんなに追い詰められていると夢にも思わなかったのだ。

人は彼の事を血も涙もない化物だと蔑んで何食わぬ顔で裏切り続け
自分達の責任を龍一人に押し付けて、それが当たり前のようにノウノウと生きている。

もし彼が一度“力”を開放して自分自身を見失えば誰であろうが止める事は出来ず立ち向かえば亡者になるだろう。

龍の心の中を荒れ狂い舞う悪魔が現実に干渉して来ないようにするには
かなりの精神力と忍耐力が必要とされるからだ。

 

「何があっても私は龍くんの傍にずっと居るから。だから安心して」

 

今、自分が言ってあげられる精一杯の言葉だった。

その言葉に安心したのか龍の瞳から流れていた涙が止まり震えが止まった。

 

「龍くん?」

「ありがとう、沙織」

「うん♪」

 

龍は彼女に軽く寄り掛かり微笑んだ。

瞳を開き再び空を見上げると沢山の星々が輝いていた。

 

「綺麗……」

「そうだな」

「龍くん」

「ん?」

「大好き♪」

 

沙織はそう言うと微笑みながら頬擦りをする。

龍は擽ったそうに目を細め沙織の髪を梳る。

この日を境に二人の距離が縮まった事は言うまでもない。

願わくば、この二人が永遠に幸せでありますように。




おわり








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