『見えない光』



いつものように千鳥の部屋で夕飯を食べさせてもらった俺は
彼女が後片付けをしている間持参していた新聞を広げ
何かわけのわからないTV番組をBGMに流しソファーでくつろいでいた。
すると、後片付けが終わった千鳥はいつものようにカップを手に持ち側へ来ると
「はい。コーヒーでいいよね。」そう言ってカップを一つ手渡し俺の隣へと座った。

「いつもすまない。」

俺がそう言うと千鳥は「どういたしまして。」っとだけ言った。

しかし、今日の千鳥は何かおかしい。
夕食を食べているときはいろいろと世間話をしてくるのに今日はまったくそう言う事もなくただ黙って食べていた。
俺が「どうかしたのか?」っと聞くと「ううん。」首を横に振るだけだった。

現に今だってそうだ。
俺にとっては面白くないTVでも千鳥はそれをみて笑っている事が多い。
なのに今はその番組さえ見ずただ手にしたカップだけを見つめていた。

TVの音だけが流れる時間。
あまりにもこの時間が俺にとっては長く感じた。
俺は仕方なく今日はもう帰ろうとコーヒーを一気に飲みほして立ち上がった。

「ソースケどうしたの?」

千鳥は驚いたように俺を見た。

「あぁ、今日はもう帰ることにする。」
「どうして?」
「ん・・・。」

俺は返事に戸惑う。
すると千鳥は俺が着た上着のすそをクィッと引っ張ると。「もう少しだけここにいて。」
っと言った。

「しかし、今日君は・・・・・」

「様子が変だ」っと言おうとしたとき

「うん・・・・わかってる。でも、もうしばらく一緒にいて欲しいの。」

そう言った。
俺は「わかった」っと告げ上着を置くとそのまま千鳥の隣へと座った。


それからどれくらい時間がたっただろうか、千鳥が重い口をやっと開いた。

「あたし・・・・いつまでこうやってここで暮らせるんだろ。」

その言葉が俺に重くのしかかってきた。

「いつまでってこれからも君はここで暮らせる。そのために俺は君の側にいるんだ。
君の生活を壊さないように、守るために。」
「それはわかってる・・・・わかってるけど・・・・」
「何か不満や心配事でもあるのか?」

俺のその言葉に千鳥は何も返事をしなかった。

「ねぇ、ソースケ。あんたはあたしを守るって言ってくれるよね?
でも、それってやっぱり限界・・・・とかあるよね?」
「何をいきなり。」
「ううん。いきなりじゃないの。前々から思っていたことなの。」

そして、千鳥は自分の思いを打ち明けた。

「ソースケはあたしを守るために今ここにこうやっていてくれる。
そのことに対してはあたしはすごく心強いし安心だってできるし、
ソースケがこうやって側にいてくれるからあたしはここに居れるんだってわかってる。 
でもね、あたしがここでこうやって何もなかったように普通に生活しててもねいつ何処でどんなときに狙われるかってわからない。
現に今までだってあたしは大勢の人たちを巻き込んでいる。
そこまでしてあんたに助けられてあたしはここで生活をしてていいのかな?って。
今は大丈夫だけどいつかいつかあたしのせいで大怪我をする人が出るんじゃないかってそれが心配で怖いの。」
「千鳥、でもそれは・・・・」
「黙って聞いて。
あたしはミスリルの力を信じてる。絶対守ってくれるってみんなも守ってくれるって。
でもね、あたしが何か行動を起こすたびにみんなが巻き込まれるのが耐えられないの。」
「・・・・・・・・・・。」
「それにね、ソースケ・・・あんたあたしの能力『ウィスパード』のこと知ってる?」
「詳しくは知らないが少しだけなら・・・・」
「だよね、以前テッサが詳しい事はほとんどの隊員は知らないって言ってたから。
この能力ね、あたしの中にもう一人のあたしがいてねそのあたしがあたしの知らないことを知っていてそれを外へ出そうとするの。で、以前テッサが言ってたの。
この能力はもう一人の自分に勝たなきゃいけないって。テッサはそのもう一人に勝ってこの能力を自分の物にしている。テッサはあたしも大丈夫だって言ってくれた。
現に2度ほど侵食されかけたけどあたしは阻止して自分の力でその能力を使ってあんたを助けたから。」
「あのときか・・・・。」
「うん。でもね、この能力は一歩間違ったらあたしは侵食されてあたしがあたしじゃなくなるの。そんな姿あたしはあんたに見て欲しくない。」
「でも、大丈夫なんだろ?」
「今は・・・ね。でも、この能力を持っている限りあたしはやっぱり普通の生活なんて出来ないのかも知れない。無事にあたしがこれを乗り越えられたとしてもあたしを狙う奴らはそれこそあたしの事を諦めないとおもう。
そのたびにあたしは周りを巻き沿いにしてしまう・・・・。」
「だからこそミスリルが・・・・」
「そのミスリルだってきっとあたしの能力を必要としているわ。
テッサは何も言わないけど。じゃなきゃここまでしてあたしを守るなんてことしないと思う。だからってね、あたしはミスリルの言いなりにもなりたくない。」

そう言って俺の目を見つめた千鳥の方が小刻みに震えているのが俺にはわかった。

「あたしはあたしの意思で行動する。誰かに利用されるなんて真っ平ごめん。
あたしがこの能力を必要と思って使うのはソースケあんたの為だけ。
ミスリルじゃないあんたの仲間のいるあの潜水艦にだけ。
それ以外には絶対に力なんか貸さない。思い通りなんてさせない。」
「千鳥・・・・・」

俺はなにも言い返すことが出来なかった。
ただ、だまって千鳥の言葉を聞く事しか出来なかった。

「だから、ソースケにお願いがあるの。」
「なんだ?」

「これ以上みんなを巻き込むような事件が起こったら・・・・
あたしをあんたの潜水艦へ連れて行って。
あたしがもしあたしじゃなくなったら・・・・
あたしがもし敵に捕まって利用されそうになったら・・・・・・・・・・・
あたしの意思ではなくミスリルに利用されそうになったら・・・・・・・・・

                    ――――――あんたの手であたしを殺して。」

「ち、千鳥それは・・・・・」

俺は驚きのあまりただ叫ぶ事しか出来なかった。
しかし、俺を見ている千鳥の目は真剣でゆるぎないほど真っ直ぐだった。

「わかってる、あたしを殺すなんてあんたには出来ないって。
あたしを守ろうとする立場のあんたがあたしを殺すなんて・・・・・
でもね、あたしは自分の知らないところで自分の意思でもない事をされるのはいや。
だったら利用される前にあんたに殺されたい。
他の誰でもないあんたに。あんたにだったらあたしの命を預けられる。」
「しかし、俺は!!」
「俺は・・・・なに?」
「俺は・・・・初めて初めて心から必要だと大切だと思った君を自分の手で殺すなんてそれは出来ない。」
「じゃ、あんたはどこか知らない場所で利用されてぼろぼろになっていくあたしをほっておくなんて出来るの?」
「それは・・・・」
「じゃ、あたしの言うとおりにして。
でないとあたしはここでこうやって暮らしていけない。」
「千鳥・・・」
「お願いだから・・・・・・あたしと一緒に見えない先を光を追いかけて・・・・」



気が付けば俺は千鳥を抱きしめていた。
ただ、それだけしか出来なかった。
涙でぐちゃぐちゃになっている千鳥の顔が俺には見ることが出来なかった。



「わかった・・・千鳥。」
「ソースケ・・・」

俺の胸にうずめていた顔を千鳥は上げ俺の顔を見た。
千鳥の顔はボロボロになっていた。

「了解した。俺は君の命そのものを守る。
そして、君の意思のとおり君にもし万が一のことがあるのなら俺は俺の意思で君の事を対処する。
でも、千鳥・・・君も君の意思で生きろ。俺は出来るだけのことは絶対にやり遂げるからだから『殺して』などと2度というな。
生きる事を考えろ。わかった。」
「うん。」

そういった千鳥の顔はボロボロになりながらも幸せな笑みを浮かべていた。




「ごめん・・・ソースケ・・・・服が濡れちゃったね。」
「気にする事はない。君の貴重な涙だ。こんなに泣いた君を見たのは初めてだからな。こういうのもたまにはいいな。」

そして、俺は上着を手に取った。

「このままではよくない。そろそろ俺は帰る。君ももう大丈夫だな?」
「え・・・・あ・・・うん。」
「なんだ?なにか問題でもあるか?」
「ううん。何も。」
「そうか、ではそろそろ行く。」
「・・・・うん。」


そして、俺は玄関へと向かった。
玄関の前で「じゃ、戸締りはじゃんとして眠れ。」っといつものように告げ玄関を出ようとしたとき千鳥が俺の腕を掴んだ。

「どうした?まだ何かようか?」
「えーーーーっと・・・・・」
「なんだ?」

千鳥は何か言いにくそうにしていた。

「なにもなければ帰るぞ。冷えて寒い。」

それでも彼女は掴んだ腕を放そうとはしない。

「どうした?」

するとポソリと小声で何かを言ったような気がした。

「・・・・・・・って。」
「なんだ?何か言ったか?」
「もう少し傍にいて。」

俺は千鳥のその言葉に驚きを隠せなかった。

「し、しかしだな・・・もう遅い。男が女性の部屋にいる時間ではない。」
「うん。わかってる・・・・でも、傍にいて欲しいの。」

顔をうつむけたまま話す千鳥の顔がなんとなく赤いのがわかった。
俺はしばらく考えたが千鳥は掴んだ腕を放すつもりもなく俺の体は冷える一方で・・・・

「わかった。ではもうしばらくだけいることにする。」

そう言ってまた部屋へと戻った。

その後、冷えるからと千鳥はしまってあった男物のトレーナーを出すと(多分、父親のものだろう)俺に着替えろと渡した。

そして、今度はホットミルクを入れてくれた。

それからしばらく2人で深夜番組を見て時間を過ごした。

気が付けば俺は眠っていたようでソファーで俺に毛布が掛けられてあった。
千鳥はその隣で一緒に眠っていた。

スヤスヤと隣で寝息を立てている千鳥の顔を見ているとあの出来事が嘘のように思えた。でも、千鳥は真剣に考えていた。だからこそ俺は何もかもしてても彼女を守りツ図家ないと・・・・っと思った。

俺は、また千鳥の寝息を聞きながら目を閉じた。



肩から伝わる彼女の温かさをいつまでも感じていたいと思った。









(Fin)







▼BACK







SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送