かなめの作戦

「ついに…ついにこの時が来たわっ!」


千鳥かなめは、陣高だよりの記事を読んだとたん、一人そうつぶやいた

その記事は、『恋人にしたいアイドル選考始まる』とある。

だがかなめが気合を入れているのはそこではない。その選考と同時進行で、裏の企画があるのだ

それは、『恋人にしたくないアイドル』の選考だ。


かなめは今、『恋人にしたくないアイドルナンバーワン』と『贈呈品イーター』の称号をもらっている

だが、そんなのは嬉しくもなんともない

かなめは、それをなんとしても挽回したかった。そのチャンスがついにきたのだ

この選考の間に、あたしの魅力をたっぷりアピールして、そのありがたくない称号を返済してやる

と、かなめは考えていたのだ


「でも、いつもどおりじゃ駄目だわ。…みんなが「いいなあ」っていう女性像ってどんなのかしら…。

身近にいって、やはりお蓮さんみたいなおっとりタイプがいいのかもね」

(よし、これからしばらくはそっちの方向でいこう。そして地を出さないようにして、頑張ろう)

かなめは強く、決心した




翌日


かなめは学校の登校中、曲がり角で宗介に会った


「む…千鳥、おはよう」


その挨拶に、かなめはしずしずと頭を下げ、挨拶を返した


「おはようございます、ソースケさん」

「貴様、偽物だな」


間髪を入れず、かなめに銃を向けた


(…こいつ、選考が終わったら絶対殺す)


かなめは怒りを表面には出さず、あくまでおしとやかさを保った


「あらあら、銃なんて物騒な物はしまって下さいな」

「黙れ、近寄るな。…今からチェックする。…動くなよ」


宗介は銃を向けたまま、かなめのほっぺをつねったり、体のあちこちをあれやこれやと…

かなめは後ろに手をまわしてハリセンを手にとったが…殴り倒すことだけは我慢した

(選考している間はどこでだれか見ているのか分からないわ…選考が終わるまでの我慢よ、かなめ)

自分に言い聞かせ、深呼吸をついた


「…ふむ、身体的特徴にはなんら問題はない…が…」


まだ疑いの目で眺める宗介に、かなめはこらえて演技を続けた


「ほら、このままでは遅刻してしまいますよ? 行きましょう」


ニッコリと微笑んで、宗介の腕を取ると、学校に向かった


学校の玄関に着くと、またも宗介が靴箱の前でうなった


「どうしました? ソースケさん」


「…また俺の靴箱に爆弾が仕掛けられてるようだ」


「あら? そうなんですの? もっとよくお確かめになったほうが…」


だが宗介はかまわずプラスチック爆弾を取り付ける

そして、爆破


地鳴りとともに爆風があたりの木片を吹き飛ばす

辺りは煙だらけ、ガラスも粉々に割れてしまった


「けほっ…また相良のやつかよ」

「くっそー、目が痛え。ったくいい加減にしろよな」


近くにいた生徒たちが、たらたらと不満をこぼす

そしてその人たちの代わりに、いつもなら千鳥の強力な一発が入るのだ


みんなの注目の中、かなめはようやく立ち上がると、宗介に近づいた


「…千鳥、爆弾ではなかったようだ」


「…そういう問題ではありませんわ。こういう所で爆弾を使ってはいけないと何度もキツく言いつけてますのに…」


ゆらり、とかなめの手が動く

「くるぞくるぞ」とまわりの生徒もかなめのせっかんを待つ

次の瞬間、かなめは親指と人差し指で輪をつくり、宗介のおでこに近づけた


「えいっ」

「痛い」


デコピンをくらわせられた宗介だが、おでこをさすり、「これだけか?」と一人つぶやいた

「はあ?」とまわりの生徒たちもあっけにとられる

そんな彼らを置いて、かなめは教室へと静かに向かっていった

(ふっふっふ…。エレガントなお仕置きでみんなのポイントを上げたにちがいないわっ)

かなめは一人、頭の中で高笑いした




昼休みの少し前


「絶対おかしいぞ、千鳥のやつ」


「あれは精巧なぬいぐるみで中身は別人じゃないか?」


おしとやかなかなめを見て、クラスはがやがやと勝手に推測したりしていた

だがそれも昼休みに判明するだろう

なぜならかなめの暴走は、昼休みのパンを買いに行くときに発揮するのだ

体裁など気にせずに、場所を問わず駆け抜け、人の山を強引にひっぺはがしてパンを買うのだ


そして、昼休みのチャイムが鳴った

ばっとみんなの視線がかなめに集中する

かなめはそっと立ち上がると、廊下に出て、
歩幅は狭くしたままトコトコと、それでいて全力ダッシュと変わらぬ速さでパンのとこまで移動した


「…千鳥。…不気味だぞ」


それを見送っていた宗介はぽつりと漏らした

パンを売っているところまで来ると、やっぱりそこは人だかりでいっぱいだった

(くっ…どうすればいいの?)

あくまでもおしとやかに行かねば…おそらくここが最大のヤマ場だろう

かなめはとにかくその人ごみの中に入っていった

だが、そんなかなめの事情も知らない生徒たちは、強引に割り込み、パンを注文していく

(くっ…大声を出したいけど…それではマイナスイメージだわっ)



するとかなめは、なぜかわざとらしくその場に倒れこみ、よよと涙目になって言った


「ああっ…ひ…ひどいわ…。あたしかよわいから…パンが…パンが…」


すると、山になっていた人たちが、すざっとかなめから離れるようにして、かなめとパン売り場までの道ができた

そして生徒たちはなにか体が寒くなったようで、がくがくと震えている

(ふっ。やったわ。けなげなあたしの姿を見てみんなの同情を誘えたわっ)

するとかなめはからっと明るくなって


「おばさん、クリームパン一個!」


かなめはクリームパンを嬉しそうに抱え、教室に戻ってきた

そしてその食べ方も上品だった

わざわざ自宅から持参してきたナイフとフォークでクリームパンを口に運んで…


「それはちょっとちがうような…」


恭子のツッコミにも動じず、かなめはそれも食べ終えた

(これでもうあの忌まわしい称号からは離れられそうね。ふっふ)

すると、それまでうろたえてたクラスの人たちが、ついに声をかけた


「千鳥さん、なにか悩みがあるんなら言ってよ」

「そうよ、なにがあったのか知らないけど、無理することないわ」

「そうそう、病院行けよ。大事をとってきたほうがいいよ」


よってたかって、心配してくれるのはありがたいのだが…


(なによなによ。まるで変わっちゃったような言い方しちゃって…)


するとがらりとドアが開き、相良宗介が入ってきた

だがその格好は制服ではない。マスクを着け、白衣を着た物々しい格好だ

そしてなにかの機材をいろいろと運んできた


「あの、なにやってますの? ソースケさん」


「うむ。本当に偽物でないかどうか調べるため、DNA鑑定をしようと思ってな。そのための機械も持ってきた」


ビキッ


と、切れそうになったが、まだだ。こらえるんだ。地を出してはいけない…


「おお、そりゃいいや。なにか異常が見つかるかもしれねえな」


まわりのクラスたちも喜んで賛同する

ビキキッ


宗介はみんなに後押しされながら、そのための準備を始めた

そしてかなめに紙コップを手渡し、


「まずは検尿からいこう。さっそくそのコップに…」


プッチン

かなめは人には理解できないおたけびを上げたあと、宗介に飛びかかった



『陣高だより』には、かなめの写真が一面で載った

その写真は片手で宗介を振り回し、暴れまわっている姿だった

ご丁寧に口から火を吹くCGまで入っている


かなめはその新聞をぐしゃっと握りしめると、悲しそうに机に突っ伏した


「うぅ…こんなはずじゃなかったのに…」


とうぶん称号はそのままになりそうだ







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