笑 顔 − かなめ編 −



あいつが東京に来てからもうどのくらい経つかな。

ざっと思い返してみても、まだ一年も経っていない。

でも、もうすぐ…あとちょっとで丁度一年が経つ。

もう一年も経つんだから……とも思うけど、あいつの今までの人生を考えると…この東京の暮らしに慣れるのは大変だと思う。

……………なんて。

今はこんな風に言っているけど、実際あいつがなにかしら騒ぎを起こすといい加減に慣れなさい…とか怒鳴っているんだけど。





それでも……最近はずいぶん変わったと思う。

一番迷惑していた靴箱爆破もやっていないし……銃とか、手榴弾とかの使用頻度も一ヶ月に片手の指で数えられるくらいに減った。










「ソースケ。 支度出来た? 帰ろ。」



今日もあいつと一緒に生徒会の仕事。

三月だからか、普段とは比べ物にならないくらい忙しい。



「仕事終わらなかったね…また明日も放課後に続きか……とほほ。」



やらなければならない…って事はわかっているんだけど…それにしたって量が半端じゃない。

本来ならあたし一人でしなければならない仕事をこうして手伝ってもらっている…それでも終わらないんだから相当な量だと言えるでしょうね。



「だがもうすぐだろう。 目処はついたからな。 明日には終わるかもしれんぞ。」

「だといいけど〜………。 あ、夕飯良かったら食べてく?」

「………助かる。」



夕飯を一緒に食べる事がいつの間にか習慣になってしまった。

初めの頃は…少し緊張しながら誘っていたような気もするけど…。

あいつもいつの間にか断らなくなった……………。










今日の夕飯は和食。

買い出ししないであり合わせの物で作ったんだけど……。

うん、我ながら上出来。



「おいしい?」

「ああ、うまい。」

「そ。 良かった。」



自信作であっても、やっぱり人の好みってものがあるからついつい聞いてしまう。

もっとも目の前で無表情に食べているこの男がまずいって言った事はないけど。



「……どしたの?」

「な、なんでもない……………。」



急に顔背けちゃって…。



「変なソースケ。」



ちょっと顔が赤い、かな。

もしかして素直にうまいって言った事照れてるのかな。

……なんて、今さらのくせにね。





顔が赤いといえば………。

最近…本当にごく最近気が付いた事だけど……。

表情が少し豊かになったと思う。

相変わらず普段なにもなければいつものむっつり顔だけど。

時々、だけど…無表情以外のあいつの表情をよく見るようになった。

それに……。



「いつもすまない。 感謝する。」



遠回しな言い方。

これってようするにごちそうさま…って言いたいのよね?

なんでもっと素直に言えないのかな〜……なんて思いながらあいつの顔をじっと見る。



「……な、なんだ…?」



うん、今はちょっと焦ってるわね。

脂汗だらだら。



「んーん。 別になんでもないわよ?」

「??」















初めて会った頃のあいつからは全然想像出来ない。

それだけあいつは変わった。

ねえ……………。

あんたはその変化を快く思っているの?

あたしの護衛とかそんなの抜きに考えてあんた自身の気持ちはどうなの?

自慢じゃないけど、東京ではあたしがあんたの側に一番いると思っている。

だからあんたの変化を一番理解しているのもあたしだと思う。

小さい頃から馴染んでいた生活をがらりと変えるのははっきり言って難しいと思う。

それでもあんたは変わったよ。

少なくとも、あたしはそう思う。





これは本人にも内緒だけど……。

変わったあんたでちょっと気になるものがあるんだ……。



「それでは馳走になった。」

「ん。 また明日。」



後片づけを手伝ってもらって…あいつは近くの自分の自宅に帰る。

明日も普通に学校があるしね。



「……千鳥…。」

「ん、なに?」



別れ際に名前を呼ぶだなんて…。

今までのあいつからしてみればちょっとめずらしいかも。

いつもは必要最低限の事しか言わないから。



「その………だな……。」

「……?」



口ごもるだなんて……ほんとめずらしい。

なにか言いたい事でもあるのかしら。



「ねえ……なに?」

「…………いや。」



あ、やけに大きなため息。

もう……なんなのよ………。



「なんでもない。 夜は冷えこむから風邪をひかないようにな。」

「え…え……う、うん。」



や、やだ…なに?

なんでそんな優しい顔するの……?



「どうした?」

「へ? ううん…なんでも……。」



顔がちょっと熱いのがわかる。

あいつが笑顔で言ったから……………。




















あいつは知らないだろうけど…。

きっと自覚ないんだろうけど……本当に表情が豊かになっている。

あたしだけじゃない……きっとクラスのみんなだって気が付いていると思う。

時々……笑顔も見せてくれるようになった。

初めてあいつの笑顔を見た時…なぜかドキドキした。

ドキドキして…顔が熱くなって……それをあいつに悟られないようにするのに必死だった。

それは今も変わらないんだけど…少し変わったのが、これからもあいつの笑顔が見たい…って思うようになった事。





あいつはこれからも変わると思う。

東京にいる限り……それは言い切れる。

これからもここに…東京にいて欲しいと思う。

あいつの立場上無理かも知れないけど……。


























あたしはソースケに側にいて欲しい。














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