虹色家族番外編1
「あぶー(これほしい!)」
「あぶ!(ほしい!)」
「あぶぶ!(超ほしい!)」
「あぶ!(買って!)」
「あっぶ!(買ってくれ)」
「ひっぱるな」
髪と袖口を五人の子供に思い思いに引っ張られ、宗介はその商品棚に目をやった。
『ボン太くんグミ(特製フィギュア付き)』
「…!!!」
(こ、これは)
雷に打たれたように身をこわばらせる。
ボン太くんグミのフィギュアシリーズでは最新作だが、この「ほほえみボン太くん」
は貴重品のなかの貴重品といってもいい、超希少種だ。ほほえみボン太くん(見本品)のつぶらな瞳が彼を見上げていた。
買ってみる価値はある。
だが、
「……か、かなめ」
「なに」
「…その」
「六人分も買わないわよ」
「しかしだな」
「自分で買いなさい」
「安いぞ」
「自分で買いなさい」
「…200円くらい」
「自分で買いなさい」
「話を聞いてくれ」
「自分で買いなさい」
「小遣いが」
「なんなら全員分買ってあげなさい」
「……」
よくわからないうちに、財布の中身からきっかり1200円減っていた。
思い出した頃に反論してみると、頭のこぶが一つ増えた。
とりあえず家に帰り、部屋の隅に座り込んでフィギュアの開封作業に入る。
「……ひっぱるな」
「あぶあぶあぶあぶ!(はやく開けろ!)」
「あっぶ!(開けて!)」
「落ち着け」
言いながらも、さっき殴られたところがいまだにずきずきする。
いつになっても、彼女の強さは変わらない。かなわない。
俺は……
「変わったか?」
何となく気になって、首だけ回して訊いてみた。
「あんまり」
「そうか」
訊いた後で、自分らしくない質問だ、と心底思った。
開封作業に戻る。
「あ、でもね」
「なんだ」
「笑うようになったよ」
そのとき、箱の中から『ほほえみボン太くん』を見つけた子供の一人が、歓喜の声をあげた。
end
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