すごうでスパイふたりぐみ 067 第四回 カナメとおどれ


エプロンを着ていない。

7「どうも、こういう所はおちつかない」

ウルズ7は、いつになくそわそわした様子で呟いた。

6「んー。ま、おまえには似合わない場所ってのはたしかだな」

薄暗く、狭い円形の空間。隔てる壁は白い布。
その隙間からは橙色の光がわずかに漏れ、人々の喧騒と優雅なクラシック音楽が聞こえてくる。
背中を丸めた彼らのすぐ頭上で食器を鳴らす音がして、そのたびに布が小さく揺れた。
夜目を利かして7が任務状を読みあげる。

7「きょうの任務は…『ちどりかなめとおどること』か。おどって一体どうするのだろう…」
 ああ、そういえば『本人に気付かれることなく』とも書いてある」
6「アホか」
7「アホだな。ナンセンスだ」

すごうでスパイといえども、7が彼女の目の前に出ればバレるのはあたりまえだ。そもそも7は踊れない。

6「よし。今回は俺が行く。まだ面識もないはずだ」
7「俺はどうすればいい」
6「監視だ。給仕係にでもなりすましてろ」

めがねとエプロンをどこからか取り出して、7に手渡した。料理担当のカスヤと同じアイテムだ。
というか給仕係にはみえなかった。もちろん7はそんなことわからなかった。

7「うむ。…では、行って来い」
6「おっし」

すごうでスパイのウルズ6は、布をめくって颯爽と飛び出していった。


6「おじょうさん。僕といっきょくおどりませんか」

ウルズ6は、早速ちどりかなめに話し掛けてみた。
こういってはなんだが6は金髪碧眼で、しかもかなりの美青年だ。
ていのよさならこの場で右に出るものはいないだろう。

カナメ「あなた、だれ?」
6「これは失礼しました。あまりに貴女がうつくしかったもので、ついとんだ無礼を…
 僕の名はカリウス(←偽名)。ちょっとした傭兵をやっています」
カ「あたしはちどりかなめよ」
6「いい名ですね。美しさと強さを兼ね備えたあなたにぴったりだ。よろしければ、後で夕食でも」
カ「まぁ。いいわね」

カナメもなんだか酔っている様子だ。
そういえば、さっき6がカナメのグラスに細工をしていたような・・・

6「休憩場所も僕におまかせください。『ラブホテル・ふもっふ』などはとてもいいところでへぶ」

がつーん

いつのまにかテーブルの下からはいずりだしていた7は、これまたいつのまにか皿を投げつけていた。
6の後頭部にガラスの皿が突き刺さる。驚くべきことに、6はその攻撃に耐え抜いた。

(しまった。俺が6を攻撃したら作戦が台無しではないか)
自分の行動に動揺するウルズ7。カナメは反応なし。

カ「うふふ・・・あなたって面白いひと」
6「ふっふっふ。それほどではへぶ」

がしゃーん

懲りずに6がカナメの腰へ手をまわしたとたん、花瓶が彼の頭に直撃。さすがに6は血を噴出して昏倒した。
皆の目線が、いまだ肩で息をしているウルズ7へと注がれる。

7「…何故だか手が勝手に動く…」
自分の手を見て本気で不思議そうにするウルズ7。

7「…ええと。とおりすがりの給仕係です。どうか気にせず」

返り血を浴びたエプロンをしたまま、見事に役を演じきる。

7「何故だか、今日は体が勝手に動いてしまうんです。彼には申し訳ない。俺がきちんと介抱しておきます」
カ「あなたもおもしろいひとね」
7「それは、どうも」
6「このやろ、ちくしょうやりやがったな7へぶ」

再び身を起こした6に凄まじい蹴りを入れる。
ケンカキック。ケンカキック。蹴り技の嵐。なんだかいつも俺を蹴り倒すカナメの気分がわかってきた。

カ「…ふふ。どう?あたしと一曲踊らない?」

カナメが目をきらきらさせて、彼の顔を覗き込む。
視線が交わると、彼女は赤らんだ顔をへにゃっとほころばせた。
7は雷に撃たれたように身を強張らせ、

7「すみません。おどれないですただの給仕係ですので」


逃げるように走り去った。

30秒ほどして、


7「すみません。忘れてました給仕係の俺としたことが」

倒れたままの6の足を引きずって、また去っていった。





にんむしっぱい。

しかし、彼女のあんなにも無防備な笑顔は久しぶりに見た。



・・・・・・まぁ、こんな日もあるか。


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